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VYNDAQEL (tafamidis) 61 mg is indicated for the treatment of wild-type or hereditary transthyretin amyloidosis in adult patients with cardiomyopathy (ATTR-CM). VYNDAQEL (tafamidis meglumine) 20 mg is indicated for the treatment of transthyretin amyloidosis in adult patients with stage 1 symptomatic polyneuropathy (ATTR-PN) to delay peripheral neurologic impairment. [INDICATION TO BE UPDATED BY LOCAL MARKET.]

SERIES 1:CASE03

人工股関節置換術の術前検査から診断に結び付いたATTR-CMの症例

診断フローとポイント

写真
患者プロフィール

写真
1.主訴・受診のきっかけ

写真
2.確定診断までに実施した検査

写真3.確定診断後に実施した治療と今後の治療方針

写真
4.ATTR-CMを疑ったポイント

写真
5.病診・病病連携のポイント

写真6.心不全患者さんの診療をされている先生方へのメッセージ

紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

患者プロフィール Cさん
 
年齢、性、身長、体重、
バイタルサイン
60歳、女性、身長152cm、体重48kg、京都府立医科大学附属病院循環器内科初診時血圧122/74 mmHg、脈拍 88/分、整
主訴 左股関節痛(杖歩行状態)
現在の症状 先天性股関節脱臼による左股関節痛、浮腫
既往歴/合併症 先天性股関節脱臼、両側手根管症候群、右人工股関節置換術既往歴あり、降圧薬の服用歴なし
初診から診断までに
かかった期間
当院整形外科受診から約2年、循環器内科への紹介受診から約2ヵ月
家族歴 姉が45歳で突然死(詳細不明)
京都府立医科大学
附属病院の受診目的
左人工股関節置換術
主訴に対する他院での
治療歴
先天性股関節脱臼に対して、2008年に右人工股関節置換術。当時実施された安静時心電図、心エコー図検査は異常なし

症例経過図
 

京都府立医科大学附属病院整形外科

  • 2017年6月~
    受診、検査(人工股関節置換術の術前検査として心電図検査)
  • 2020年9月
    両側手根管症候群手術

同院循環器内科

  • 2019年8~10月
    整形外科での心電図異常のため検査(身体所見、心エコー図検査、心臓MRI検査、血液検査、核医学検査、心筋生検、病理検査、遺伝子検査 [確定診断])
  • 2019年10月~
    治療(カリウム保持性利尿薬 [スピノロラクトン]およびビンダケル
    ®投与)


お話を伺った診察・検査担当医師
 

京都府立医科大学附属病院 循環器内科 学内講師
山野 哲弘 先生


※監修者のご所属・肩書は取材当時のものです。

1.主訴・受診のきっかけ

人工股関節置換術の術前心電図検査で異常を認める
 

Cさんは、先天性股関節脱臼による股関節痛のため、左人工股関節置換術を希望して当院整形外科に紹介されました。その際、母指球の萎縮が確認されました。5年前から自覚症状があり、整形外科医、Cさんとも両側手根管症候群があることを認識していましたが、この時点で心アミロイドーシスは疑われておらず、術前に行われた心電図検査で異常所見(V1~V3R波増高不良、Ⅱ・Ⅲ・aVF誘導で陰性T波)を認め、当科に紹介されました。
なお、2008年に他院で受けた右人工股関節置換術の術前に実施された安静時心電図検査および心エコー図検査では、異常が認められませんでした。

2.京都府立医科大学附属病院で確定診断までに実施した検査

心電図検査と心エコー図検査の結果の矛盾から心アミロイドーシスを疑う
 

心電図検査の異常所見(①)で当科に紹介されたため、まずは身体所見(②)の確認と心エコー図検査(③)を実施しました。心エコー図検査の結果、心電図検査の所見とは矛盾するびまん性の左室肥大を認め、心アミロイドーシスが疑われたため心臓MRI検査(④)~心筋生検および病理検査(⑦)を施行しました。心筋生検ではアミロイド繊維の沈着を認め、免疫染色でATTR陽性となったため、遺伝子検査(⑧)を行って野生型トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)と診断しました。

①心電図検査:心アミロイドーシスに特徴的である偽梗塞パターンを認める

人工股関節置換術の術前検査として、整形外科からのオーダーで行いました。その結果、心電図異常が見られたため当科に紹介されました。心電図検査では、V1~V3にR波増高不良所見を認めました(図1)。これは、前壁中隔の陳旧性心筋梗塞様の所見ですが、Cさんは冠動脈疾患などがなく、いわゆる偽梗塞パターンと呼ばれる状態です。偽梗塞パターンは心アミロイドーシスの特徴的心電図所見の1つです。

図1. 過去の心電図と当院循環器内科紹介の契機となった心電図の比較:
V3Rが明らかに減高している

2008年3月

2019年8月

(提供:京都府立医科大学附属病院 循環器内科 学内講師 山野 哲弘 先生)

②身体所見:左室肥大を疑う心尖拍動とⅣ音

触診では二峰性の心尖拍動があり、心肥大が強く示唆されました。また、聴診では強大なⅣ音があり、左室肥大に伴う所見と考えられました(図2)。手根管症候群の典型的な所見である母指球の萎縮も、両側に確認しました(図3)。両側手根管症候群はATTR-CMの特徴的な症状の1つで、最近は疾患啓発が行われていますが、循環器内科医でも手根管症候群とATTR-CMを結び付けて考える医師はまだ少ないかもしれません。

図2.  心尖拍動図と心尖部領域心音図:心尖拍動図における明瞭な心房波および
時相に一致したIV音を認める(矢印)

図3.  両手の所見:明確な両側母指球の萎縮を認める

(提供:京都府立医科大学附属病院 循環器内科 学内講師 山野 哲弘 先生)

③心エコー図検査:心電図所見と矛盾する左室壁肥厚あり

心エコー図検査では左室壁にびまん性肥厚があり、心室中隔厚14mm、後壁厚12mmでした。左室壁運動は正常なものの左房拡大があり、左室流入血パターンは米国心エコー図学会(ASE)/欧州心血管画像診断学会(EACVI)による「心エコーによる左室拡張機能評価のための勧告 2016年」1)で定める グレード2の拡張不全でした。
Cさんの心エコー図検査所見について大まかにいうと、左室駆出率は保たれているものの、左室のびまん性肥大と左室拡張障害を示す所見があります。心肥大で左室壁肥厚があれば通常、心電図所見は高電位になりますが、Cさんの心電図は心筋梗塞様かつ高電位所見を認めず、心エコー図検査の結果と矛盾が生じます。心電図検査と心エコ―図検査の結果、さらに高血圧が既往を含めてないことから心アミロイドーシスを疑いました。
なお、左室全体の長軸方向ストレイン(GLS)は、-13.2%と低値でした(正常はおおよそ-20%)。心中部、心基部の長軸方向ストレインが低下し、心尖部では保たれているapical sparing patternは本例では典型的ではありませんでしたが、パラメトリックイメージングのBull’s eye表示を見ると「その傾向はある」と考えました(図4)。apical sparing patternは最近、エコー専門医の間で心アミロイドーシスに特異的な所見として注目されています。

1)Nagueh S. F. et al. :J Am Soc Echocardiogr 29 (4):277, 2016

図4. 心エコー図:
A)拡張末期 B) 収縮末期 C) 左室流入血パルスドプラ D) 中隔側僧帽弁輪組織ドプラ 
E) 心筋長軸方向ストレインパラメトリックイメージングのBull’s eye表示

(提供:京都府立医科大学附属病院 循環器内科 学内講師 山野 哲弘 先生)

④心臓MRI検査:心アミロイドーシスを示唆する遅延造影を認める

心エコー図検査所見から心アミロイドーシスの可能性が高まったため、心臓MRI検査を行いました。その結果、左室肥大があるものの左室収縮は良好で、左室駆出率71%と心エコー図検査の所見と一致していました。さらに、心筋に広範な遅延造影を認めました(図5)。これは、心アミロイドーシスの可能性を強く示唆する所見です。
心筋のT1値を定量的に測定するT1 mappingが心アミロイドーシスの診断に極めて有効とされるため、今後はT1 mappingも当院で実施できるよう、検査体制を整備していきたいと考えています。

図5. 心臓MRI遅延造影左室短軸像:
斑状に左室心筋の遅延造影を認める。特に心基部中隔から下壁には心筋全層性に遅延造影が見られる

心尖部

心室中部

心室基部

(提供:京都府立医科大学附属病院 循環器内科 学内講師 山野 哲弘 先生)

⑤血液検査:胸痛がないものの、BNPと高感度トロポニンⅠが高値

B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値は95.7pg/mL(基準値18.4 pg/mL以下)、高感度トロポニンⅠ値は42.3pg/mL(基準値26.2 pg/mL)でした。胸痛などの訴えがない患者さんで、複数回測定した高感度トロポニンⅠ値が軽度上昇している場合は、心アミロイドーシスを疑うべきと考えます。
なお血清、尿中免疫電気泳動ではM蛋白、及びベンスジョーンズ蛋白をともに認めませんでした。

⑥核医学検査:左室心筋に99mTcピロリン酸高度集積

日本循環器学会などによる『2020年版心アミロイドーシス診療ガイドライン』で推奨している3時間後撮影にて、99mTcピロリン酸シンチグラフィを実施しました。その結果、99mTcピロリン酸が肋骨よりも高度に心臓に集積するGrade 3と判定しました(図6)。定量評価で使用される心臓と対側肺野の集積比(H/CL)は2.100と高値でした(前述のガイドラインにおけるカットオフ値 1.3)。

図6. 99mTcピロリン酸シンチグラフィ像

(提供:京都府立医科大学附属病院 循環器内科 学内講師 山野 哲弘 先生)

⑦心筋生検/病理検査:ATTR-CMの疑いが強く、心筋生検から実施

これまでの検査結果から強くATTR-CMが疑われたため、右室心内膜心筋から組織生検を行いました。結果はアミロイド染色陽性でした。当院では、免疫染色をAA(-)、ATTR(+)の2種類のみ行い、「アミロイドーシスに関する調査研究班」に AA(-)、ATTR(+)、ALk(-)、ALλ(-)、Aβ2M(-)の5種類を依頼しました。
この時点では、まだ院内の診断方法が確立していなかったこともあり、本例における明らかな障害臓器である心臓からの組織生検を初めから実施しましたが、現在では99mTcピロリン酸シンチグラフィで強陽性の症例は、侵襲性が低い腹壁脂肪や十二指腸の生検を先に行い、アミロイドが検出されなかった場合には心筋生検を実施するようにしています。
なお、外部に免疫染色を依頼した主な理由は、同研究班による正確な診断をいただきたかったためですが、ALk、ALλの免疫染色が市販抗体では難しいケースが多いことも1つの理由です。今後は、院内でも同研究班と同等の染色ができる体制を構築していきたいと考えています。

⑧野生型ATTR-CMと確定診断

遺伝子検査には異常を認めず、野生型ATTR-CMとの診断に至りました。

3.確定診断後に実施した治療と今後の治療方針

※ 紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

利尿薬およびビンダケル®と心エコー図検査などによるフォロー
 

  • 確定診断後に開始した治療:利尿薬およびビンダケル®投与
     

    Cさんは股関節痛のため普段から杖を使って移動するなど活動制限があるため、労作時呼吸苦の有無は不明確ですが、心エコー図検査の結果は強い左室拡張障害と左房圧上昇の可能性を示していたことから、心不全症状があると考えました。そこで、軽い浮腫に対してはカリウム保持性利尿薬(スピノロラクトン)を処方しました。
    ATTR-CMに対しては、ビンダケル
    ®投与を開始。その後も継続し、病状は安定しています。投与開始から2週間、4週間と通院間隔を徐々に空けて、現在は3ヵ月に1回程度の通院で処方しています。
    なお、2020年9月には当院整形外科で両側手根管症候群に対する手術を行い、左人工股関節置換術は延期となっています。

     

  • 今後の治療方針:6ヵ月ごとに心エコー図検査、BNP値、高感度トロポニン値を測定
     

    経過観察は3ヵ月ごとに一般的な血液検査を行い、6ヵ月ごとに心エコー図検査、BNP値、高感度トロポニン値を測定してフォローしています。

4.ATTR-CMを疑ったポイント

複数のRed flagを見逃さない
 

  • ポイント①:心電図異常
  • ポイント②:心エコー図における高度の左室肥大
  • ポイント③:手根管症候群


人工股関節置換術の術前検査として行われた心電図検査での異常所見をきっかけに、循環器内科に紹介された症例です。Cさんは心エコー図検査の結果、当科紹介初期から強く心アミロイドーシスが疑われました。手根管症候群に関しては、Cさんご自身にも病識があったものの、それを心アミロイドーシスと関連付けて考える臨床医は、まだ多くはないのではないでしょうか。しかし、手根管症候群はATTR-CMの1つのRed flag(警戒徴候)です。また、心電図や心エコー図を見ると、典型的所見を示していると考えます。これらのRed flagがあった場合は、心アミロイドーシスを疑うという認識を持つことが、ATTR-CMを早期に発見する上での大きなポイントだと思います。

5.病診・病病連携のポイント

今後も当院でフォロー予定
 

Cさんから近医への紹介希望などがないため、当面は3ヵ月に1回の頻度で通院していただく予定です。

6.心不全患者さんの診療をされている先生方へのメッセージ

心電図異常などのRed flagに気付けば早期診断が可能
 

非循環器領域での手術前の心電図異常を契機に偶然、軽度の浮腫が認められる程度の軽い心不全症状の段階でATTR-CMと早期診断できた症例です。
早期診断とはいえ、私たち循環器専門医が特別な技術を駆使しなければ発見できなかったというわけではありません。心電図や心エコー図の所見を見て異常に気付くことができれば、比較的容易に診断が可能な典型例です。ATTR-CMは、顕著な心不全症状が見られなくても、心電図異常や手根管症候群などの比較的特徴的なRed flagが早い段階から現れるケースがあります。そういう意味では、知識と認識を持つことで確実に診断可能な疾患だと思います。別の症例では、ほぼ無症状ながら検診におけるN端末プロBNP(NT-proBNP)高値という徴候から精査を行い、ATTR-CMの診断に至ったケースもあります。
迅速かつ適切な治療に結び付けるためにも、早期診断のポイントを認識していただけるとよいと思います。

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