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監修:針谷 正祥 先生(東京女子医科大学医学部内科学講座 膠原病リウマチ内科分野 教授・基幹分野長)
関節リウマチやSjögren症候群、全身性エリテマトーデスといった自己免疫疾患に伴うリンパ節腫脹は、日常診療でしばしば遭遇します。その多くは関節リウマチに伴う反応性リンパ節腫脹ですが、感染症やリンパ増殖性疾患によるリンパ節腫脹をみることがあり、これらを適切に鑑別することが臨床的に重要です。リンパ増殖性疾患はポリクローナルな増殖からモノクローナルな増殖までを含んだ概念で、リンパ節の構造を正常に保ったものから悪性リンパ腫の基準を満たすものまでを含みます。
ここでは、リウマトレックスで注意すべき副作用の1つである、リンパ増殖性疾患について、リウマチ専門医の先生方に日常診療で気をつけていただきたい事項についてご紹介してまいります。
▼ MTXで治療中の関節リウマチ患者におけるLPDの特徴
▼ MTXで治療中の関節リウマチ患者におけるLPDに対する対策
▼ LPDにおける患者コミュニケーション
▼ まとめ
MTX投与中の関節リウマチ患者におけるリンパ増殖性疾患は、WHO分類1)で、「免疫不全関連リンパ増殖性疾患」の「その他の医原性免疫不全関連リンパ増殖性疾患」に分類されています。その特徴として、皮膚や肺などの節外病変が多く認められること、Epstein-Barrウイルス(EBV)の関与が認められる症例あること、また、MTXを中止することで自然退縮する症例が多いことが挙げられます。
①60~70歳前後の比較的高齢でみられるとされています。
②66~83%が女性で、RA全体と大きな差はありません。
③MTX投与開始からリンパ増殖性疾患発症までは平均7年といわれていますが、広いばらつきがあります。
④発熱、寝汗、体重減少などの全身症状が30%程度でみられ、検査上も関節症状の増悪を伴わない炎症反応の上昇や可溶性IL-2受容体高値例が見られます。
⑤節外病変が多いことも特徴です。50~80%で肺、口腔・咽頭、消化管、骨髄、皮膚・皮下組織、肝臓などにみられるという報告があります。
⑥B細胞性リンパ腫が多く、T細胞性リンパ腫の報告は少ないとされています。全体の半数程度を占める単形性B細胞LPDの大半はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)です。次いで古典的Hodgkinリンパ腫が10~15%を占めます。これら以外に、単形性T細胞LPD、多形性LPD、反応性濾胞過形成などがみられます。
⑦半数から2/3程度はMTXを中止することにより自然消退します。自然消退例と非消退例の間で、リンパ増殖性疾患発症時の患者背景と血液検査異常に差はありません。
①リンパ節腫大が最も多い初発症状です。発現時期、経過、自発痛・熱感などを確認します。
②頻度が高い節外病変として、難治性の口腔内・咽頭・鼻腔の痛み、潰瘍、隆起や腫瘤、皮膚の結節や潰瘍、呼吸器症状、肝脾腫などを確認します。
③リンパ腫のB症状である発熱、寝汗、体重減少を確認します。
MTX投与開始前には、問診と身体診察、スクリーニング検査(末梢血検査、赤沈、一般生化学検査、免疫血清学的検査、胸部X線検査に加え、肝炎ウイルスと肺結核のスクリーニング検査)を実施して下さい。
リンパ節腫脹を認める患者ではMTX投与開始前に悪性リンパ腫などの可能性を十分に除外して下さい。投与後にリンパ節腫脹の出現や増大を認めた場合は、MTXを一時中断した上で精査する必要があります。
表1 MTX慎重投与に相当する患者とその対応
状態 | 対応 |
白血球数<4,000/mm³ 血小板数<100,000/mm³ 薬剤性骨髄障害の既往 ※白血球数<3,000mm³ 血小板数<50,000/mm³ は投与禁忌 |
可能な限り葉酸を最初から併用 |
リンパ増殖性疾患の既往 ※過去5年以内の既往は投与禁忌 |
他の治療選択肢がないか十分に検討 |
リンパ節腫脹 | 悪性リンパ腫を疑う臨床徴候がないことを確認した後、MTX投与を開始 |
日本リウマチ学会MTX診療ガイドライン策定小委員会 編: “第2章 禁忌と慎重投与”
関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン2016年改訂版 羊土社:19, 2016より改変
MTX開始後あるいは増量後6ヵ月以内は2〜4週ごとに、至適投与量決定後は4〜12週ごとに検査を実施して下さい。
関節リウマチのコントロールが良好であるにもかかわらず発熱、体重減少などの症状が出現した場合、原因不明の炎症反応上昇が認められた場合には、リンパ増殖性疾患を疑う臨床症状と身体所見の確認を含めた精査を行うことが重要です。
MTXおよび併用している生物学的製剤や免疫抑制薬を中止するとともに、LPDが疑われる症状の部位に関連する専門医、血液内科専門医、病理診断医と連携をとり、鑑別診断を行います。
リンパ増殖性疾患の確定診断のためには、病変部位の生検が必須です。生検の前に表2を参考に適宜検査を行い、鑑別診断を試みます。自然消退例ではMTX中止後2週間以内で消退が始まるため、生検を考慮する場合は、すみやかに他科と連携し、全身の画像評価や生検の部位、タイミング、検査内容を調整する。
表2 リンパ腫/リンパ増殖性疾患が疑われたときの検査
尿・血液・生化学検査 | 尿検査 | 糖、タンパク質、潜血、沈査 |
末梢血検査 | 白血球数、好中球数、リンパ球数、腫瘍細胞数、赤血球数、ヘモグロビン値、血小板数、白血球分画、末梢血液像(塗抹標本を含む) | |
生化学検査 | ESR、CRP、TP、Alb、ALT、AST、LDH、ALP、γ-GTP、Na、K、Cl、Ca、P、BUN、Cr、FBS、UA、タンパク質分画、ACE | |
免疫・感染症検査 | 免疫検査 | IgG(IgG4)、IgA、IgM、β2ミクログロブリン、免疫タンパク質電気泳動、自己抗体(抗核抗体など)、可溶性IL-2受容体 |
ウイルス検査 | HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体、HCV抗体、HIV抗体、HTLV-1抗体、サイトメガロウイルス抗原、風疹ウイルス抗体など | |
EBV関連検査:血中EBV-DNA、VCA/EA/EBNAに対するIgG/IgA/IgM抗体 | ||
その他 | クォンティフェロン・T-スポット,トキソプラズマ抗体 | |
画像・内視鏡検査 | 胸部X線、US、造影CT(頸部・胸部・腹部・骨盤) (必要に応じ)上部・下部消化管内視鏡、脳ガドリニウム造影MRI、FDG-PET/CT、動脈血ガス分析 |
|
その他の検査 | 12誘導心電図 (必要に応じ)髄液検査 |
|
確定診断のための検査:リンパ節生検、骨髄穿刺・生検、免疫学的検索 |
3学会合同RA関連LPDワーキンググループ(日本リウマチ学会,日本血液学会,日本病理学会)編:
関節リウマチ関連リンパ増殖性疾患の診断と管理の手引き 第1版, 羊土社:85, 表2, 2022より転載
LPD寛解後の関節リウマチ治療では、再発リスクを考慮して、MTXの再投与は原則行わず、タクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬の使用についてはリンパ増殖性疾患の再発に十分な注意が必要です。
リンパ増殖性疾患発症後の関節リウマチに対する生物学的製剤の安全性に関するエビデンスは極めて限られていますが、慎重な判断のもとで単剤またはcsDMARDと組み合わせて使用することは可能です。
MTX投与前のスクリーニング時には、患者さんに対しても、リンパ系疾患の既往歴がないかを確認します。
モニタリング時も、単に検査値だけを見るのではなく、頸部や腋窩のリンパ節の触診、急激な体重減少や原因不明の発熱がなかったかどうかについて尋ねるなどを行っています。また、定期の診察の間にそのような症状があった場合には、予定外であってもなるべく早く受診するように伝えるようにしています。
日本リウマチ学会や各製薬企業から、患者さん向けの小冊子なども出されていますので、適宜利用してください。
関節リウマチ患者さんを診察する際、どうしても感染症や肺障害、血液障害といった、短期的な副作用に目が向きがちですが、服用期間が長い患者さんでは、リンパ増殖性疾患についても留意しておく必要があります。MTXの中止だけで消退することも多いので、関連する診療科・専門医の意見を仰ぎながら、適切かつ迅速に対応することが求められます。
なお、MTXに関連するリンパ増殖性疾患に関しては、2022年6月に3学会合同による『関節リウマチ関連リンパ増殖性疾患の診断と管理の手引き』が発刊されていますので、こちらも参考にしていただければと思います2)。
【リウマトレックス電子添文における重要な基本的注意】(抜粋)
8.9 悪性リンパ腫、リンパ増殖性疾患、急性白血病、骨髄異形成症候群(MDS)等があらわれることがあるので、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。[15.1.1参照]
【リウマトレックス電子添文におけるその他の注意】(抜粋)
15.1 臨床使用に基づく情報
15.1.1 本剤の投与中に発現したリンパ増殖性疾患の中には、本剤投与中止により消退したとの報告もある。[8.9参照]
リウマトレックスの電子添文はこちらから
参考:
1)日本血液学会 日本リンパ網内系学会 編: 造血器腫瘍取扱い規約 2010年3月 第1版 金原出版株式会社: 218, 2010
2)3学会合同RA関連LPDワーキンググループ(日本リウマチ学会,日本血液学会,日本病理学会)編:関節リウマチ関連リンパ増殖性疾患の診断と管理の手引き 第1版, 羊土社.2022
3)日本リウマチ学会MTX診療ガイドライン策定小委員会 編:関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン2016年改訂版 羊土社.2016
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