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潰瘍性大腸炎(UC)患者さんは、お腹が張ってつらいと食事を取ること自体に慎重になりがちです。お腹が張ると困るので外出前は食事を取らない、とりあえずやわらかいものだけ食べているなど、患者さんは自己判断で対処していることが多いようです。そんな患者さんにどんな食事指導をしてあげればいいのでしょうか。UC患者でもある管理栄養士の小林美貴先生に、お腹の張りが気になるときの食事についてお話を伺いました。
中学2年生だった1997年にUCを発症し、その1年半後に大腸を全摘。当時の治療で厳しい食事制限を課せられたことがきっかけの一つとなり、管理栄養士に。福祉施設に勤務した後、自治体の介護予防教室や食生活改善事業などに携わり、地域のクリニックで生活習慣病をはじめとする患者さんの栄養相談なども行っている。
中学2年生だった1997年にUCを発症し、その1年半後に大腸を全摘。当時の治療で厳しい食事制限を課せられたことがきっかけの一つとなり、管理栄養士に。福祉施設に勤務した後、自治体の介護予防教室や食生活改善事業などに携わり、地域のクリニックで生活習慣病をはじめとする患者さんの栄養相談なども行っている。
UC患者さんは、どんなときにお腹が張りやすく、またどのような方法で対処しているのでしょうか。お腹の張りに悩みながらも、なんとかやり過ごしている、患者さんの実態について教えていただきました。
腸の炎症で悪玉菌が増えるとガスが発生してお腹が張る、という患者さんは比較的多くいます。ただ患者さんによって、食後、外出前、朝起きたとき、寝る前など、お腹が張るタイミングはまちまちです。私自身もそうなのですが、パンや麺など小麦製品を食べるとお腹が張るという声もよく聞きます。
外出中や仕事中にお腹が張ると困るので、その前には食事を取らないという患者さんもいます。ですから朝出かけて夜に帰るという生活をしている方は、朝食と昼食を取らずに、食事は1日1回のみという場合もあるようです。お腹の張りの原因である腸内環境の乱れを改善するためにも食事は重要ですし、一時的にせよ、欠食による栄養不足も心配です。
中には食事以外で自分なりの解消法を実践している方もいます。たとえば、寝る前に「の」字を描きながらお腹をやさしくマッサージする、布団に仰向けに寝る→横を向く→反対側を向くなど、ゴロゴロと体の向きを変える、寝るときは腹巻をするなどです。とくに秋冬は「夜間に冷えると、明け方にお腹がパンパンに張って目が覚める」という方が多いようです。私も季節に関係なく、必ず腹巻をして寝るようにしています。
お腹の張りに困ったとき、UCになって間もない患者さんや、お腹の張りがひどい、しょっちゅう張ってつらい、という患者さんは受診して医師の指導を仰いでいる方が多いようです。一方、比較的症状が軽い患者さんは、インターネットや本などで集めた情報から対処法を探して実践している方が多いです。同じ病院に通院中だったり、入院中に知り合った患者さん同士で情報交換している、という話も聞きますね。
UC患者さんは、症状が落ち着いていれば、食事でしっかりとエネルギーや必要な栄養素を補給する必要があります。ところが、お腹の張りを気にするあまり、欠食している人も少なくありません。お腹の張りを予防・改善するためには、どのような食事指導が必要なのでしょうか。最近注目されている低FODMAP食の取り入れ方についても伺いました。
お腹が張る原因は、腸が炎症を起こすために腸内で発酵が起こってガスがたまりやすくなることにあります。そこで、私は食事の取り方で腸内環境を整えることをアドバイスしています。
お腹が張っているときは、分解されるときに腸内で発酵しやすい肉よりも、魚を選んだほうがいいでしょう。ぬか漬けなどの発酵食品もおすすめです。ぬかに含まれる酪酸菌には腸内環境を整える働きを期待できるので、悪玉菌が発するガスを減らしてくれます。漬ける野菜は、腸に負担がかかる不溶性食物繊維が多いものを避ければとくに何でも構いません。
腸を温めるみそ汁もおすすめです。にんじんや大根、なす(皮を除いた)、白菜、豆腐など、自分に合った食材を入れるといいですね。甘酒(アルコールが含まれない米麹甘酒※砂糖不使用のもの)も麹が腸内環境を整えるのに役立つので、試したことがない人はチャレンジしてもいいかもしれません。
一般的に腸内環境を整えると聞くと乳酸菌やビフィズス菌が多く含まれるヨーグルトを思い出すかもしれません。でも、商品を見るとわかるように、ヨーグルトにはそれぞれ含まれる菌が異なり、果たしてその菌がその患者さんに合うかどうかはわかりません。脂質も含まれるので、ご自身の体調に合わせて取り入れてみましょう。
私が知る限りでは、お腹の張りをやわらげる低FODMAP食について知っているUC患者さんは全体の3分の1くらいです。その方たちも「名前だけ知っている」とか、「知っていても取り入れていない」という方がほとんどです。
低FODMAP食は、オーストラリアのある研究で注目を浴び、IBS(過敏性腸症候群)のガイドラインでも紹介されています。でもまだ質の高いエビデンスは少なく、日本でも紹介にとどまっており、積極的にすすめられているわけではありません。
お腹の張りで困っているなら、低FODMAP食を試してみてもいいと思います。そのときは、最低2~3週間くらい続けてみて、体に変化が出るかどうかを観察することが大切です。また、いろいろな食材を一度に試すと、どの食品がお腹の張りに効果があったのかがわかりません。1、2種類ずつ試してみて、少し時間をかけながら、自分に合った食品を選ぶのが得策だと思います。
患者さんに寄り添った言葉がけやアドバイスが患者さんの不安を和らげ、気持ちを楽にします。いったいどんなことを心がけながら食事指導をするとよいのでしょうか。
お腹が張るつらさは患者さん本人にしかわかりません。まずは患者さんが話しやすい雰囲気をつくってあげてほしいです。病歴が長い患者さんの中には「つい誘惑に負けて、ケーキを2つも食べてしまった」など、自分の失敗を口にする方もいます。その場合も「だから言ったでしょ!」と頭から否定するのではなく、「体調がいいときは、つい食べたくなりますよね。次から気をつければ大丈夫ですよ」と患者さんの気持ちに寄り添ったアドバイスをしてあげてほしいです。
とくに若い世代で病歴が浅い人は、入学や就職などで環境が変わることが多く、新しい環境で緊張するうえにお腹の張りで余計につらいという患者さんも少なくありません。その気持ちを理解して、食事にちょっと気をつければ、無事に切り抜けられることも多いという話をして、不安を解消してあげてほしいです。
UC患者さんの場合、クローン病ほど食事の制限が厳しくはありません。とくに病歴が浅い患者さんや、神経質な患者さんは、「これは食べていい」「これはダメ」と食品を限定されると“大変な病気になってしまった”と落ち込んでしまいがちです。患者さんがどんなときにお腹が張って困るのかをよく話を聞き、そのときの症状や場面に合わせて食品を選ぶとよいと伝えると、患者さんも前向きな気持ちになれるでしょう。
患者さんに食べたメニュー名を聞いても、その患者さんのお腹の張りの原因になりそうな食品を見つけるのは、なかなか難しいと思います。
そこでおすすめしたいのが、患者さんにスマートフォンなどで2、3日分の食事の写真を撮影してもらうことです。毎日食事記録をつけるのと違い、患者さんの負担も少なくてすみます。写真なら、食べている食品や量がひと目でわかり、その患者さんのお腹の張りの原因となっていると思われる食品を見つけやすくなります。その食品の量を減らしたり、ほかの食品に代えるなどのアドバイスもできます。あれもこれもと欲張らず「まずは朝食のパンをごはんにしましょう」など優先順位をつけてあげると、患者さんも実行しやすいと思います。
監修:国崎 玲子 先生
横浜市立大学 附属市民総合医療センター
炎症性腸疾患(IBD)センター 准教授
潰瘍性大腸炎の患者さんのためのよくあるお悩み解消レシピを冊子にて紹介しております。管理栄養士監修の元、お腹の張りが気になるときの食事のポイントについてのアドバイスも掲載しております。
とくに病歴が浅い患者さんには、食品の選び方や調理の工夫によってお腹の張りを解消したり、予防したりできることを知ってほしいです。冊子に掲載されているレシピの数は限られるので、レシピの基本は守りつつ、ほかの食材に代えてみたり、味つけを自分好みに調整したりするなど、いろいろ試しながら、メニューの数を増やしていけるよう声かけしてもらえたらいいと思います。
本コンテンツは、日本国内の医療・医薬関係者を対象に、日本国内で医療用医薬品を適正にご使用いただくため、日本国内の承認に基づき作成されています。日本の医療機関・医療提供施設等に所属し、医療行為に携っている方を対象としており、日本国外の医療関係者、一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
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