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潰瘍性大腸炎(UC)患者さんは、腸内の出血による貧血や下痢が続くことによる脱水が心配です。症状がひどい場合は、医療機関での処置が必要ですが、軽症の場合は、患者さん自身で対処することになります。でも、患者さんの食事に関する知識が十分でなく、なかなか予防・改善につながらないと感じることはありませんか。そこで、UC患者でもある管理栄養士の小林美貴さんに、貧血・脱水が気になる患者さんの食事のポイントについて伺いました。
中学2年生だった1997年にUCを発症し、その1年半後に大腸を全摘。当時の治療で厳しい食事制限を課せられたことがきっかけの一つとなり、管理栄養士に。福祉施設に勤務した後、自治体の介護予防教室や食生活改善事業などに携わり、地域のクリニックで生活習慣病をはじめとする患者さんの栄養相談なども行っている。
中学2年生だった1997年にUCを発症し、その1年半後に大腸を全摘。当時の治療で厳しい食事制限を課せられたことがきっかけの一つとなり、管理栄養士に。福祉施設に勤務した後、自治体の介護予防教室や食生活改善事業などに携わり、地域のクリニックで生活習慣病をはじめとする患者さんの栄養相談なども行っている。
貧血や脱水の患者さんはどのくらいいるのでしょうか。また貧血や脱水の予防・改善のために患者さんはどんな努力や工夫をしているのか、教えていただきました。
UC患者さんは顔色が青白い方が多いな、という印象があります。「疲れやすい」「ふらつく」「動悸や息切れがある」などの症状があって、貧血と診断されている方もいますし、とくに自覚症状がなくても、血液検査で貧血の傾向があると指摘されている患者さんは多くいます。
腸内が炎症で荒れて腸内環境が悪化しているUC患者さんには、鉄剤は逆に負担になる場合があるため、食事でコントロールすることが基本になります。また、ふらつきを予防するために急に立つなどの動作や、激しい運動は避けるようにしている方もいます。
一方、UC患者さんは下痢で脱水にならないように、水分をこまめに補給している方が多いですね。私も経験がありますが、夏場は気をつけていても脱水になってしまい、病院で点滴を受ける方もいます。
患者さんは、大量に汗をかいたときにはイオン飲料を飲んだり、エネルギー補給を兼ねてゼリー飲料を飲んだりしますが、通常は水やお茶などを飲まれています。とくに排便回数が多いときの水分補給は重要です。水分は筋肉に蓄えられるため、筋トレを欠かさないという方もいます。
ふらつきや疲れやすさなど、貧血の症状が出ている患者さんは、基本的に医療機関を受診されますが、症状がさほど深刻でない方は、同じUC患者さんのブログなどから、貧血や脱水の予防・改善についての情報を得て、自分に合った方法を実践したり、SNSなどで知り合った患者さん同士でグループを作り、情報交換したりしています。
貧血や脱水は重症でなければ、普段の食事で予防・改善することができます。では、どんな食事をすればいいのでしょうか。おすすめの食品と調理法を教えていただきました。
UC患者さんの貧血は、腸からの出血のほかに鉄の摂取量の不足、炎症による吸収障害などによる鉄不足が原因です。貧血の予防・改善のためには、意識して鉄を摂ることが重要です。
鉄は、ほうれん草や小松菜・プルーンなどの植物性食品にも含まれますが、赤身肉、レバーペースト、かつお、まぐろ、あさりなど、動物性食品に含まれる鉄のほうが、体への吸収率が高いのでおすすめです。あさりは消化しにくいので体調を見ながらチャレンジしていただけたらいいと思います。また、きな粉や青のりをふりかけ代わりにかけるのも手軽でよいと思います。
鉄はブロッコリーやパプリカ、じゃがいもなどビタミンCを含む食材と一緒に摂ると吸収率が高まります。これらの野菜は蒸すだけでおいしく食べられます。少量で構いませんので、ぜひ一緒に食べるといいでしょう。
脱水が気になるときは、水分を多めに摂れるメニューを選びましょう。脂質を抑えられ、体を芯から温めてくれる鍋物やポトフがおすすめです。たっぷりのスープでじっくりと煮込むのがポイントです。具が多めのスープやみそ汁、野菜ジュース、おじやのほか、ゼリーもいいですね。
外食では、単品メニューより、複数の食材がとれる定食メニューを選びましょう。定食は比較的栄養バランスがよく、たいてい汁ものがついているので胃腸を温めることができます。貧血気味のときは、かつおのたたき定食など、鉄を含む食材を使ったものがおすすめです。食材や調理法にもよりますが、UC患者さんは外食では和食のメニューを選んでいる方が多いようです。
脱水が気になるときの外食は、水分を多く摂るために煮込みうどんなど汁をベースとして、具材をやわらかく煮込んだものがおすすめです。
貧血や脱水が気になる患者さんの不安や心の負担をできるだけ取り除くために、医療従事者からかけてあげたい言葉とは何でしょうか。
患者さんには、なぜ貧血や脱水になっているのかを説明したうえで、つらい症状を改善するために、今は鉄を多く含む食材や水分を多めに摂るための食事を心がけてほしいと伝えてほしいです。さらに、症状が改善されれば、ほかの食品や調理法もOKになると言ってあげると、患者さんも気持ちがラクになると思います。
腸管内の出血など症状の悪化を恐れて、おかゆだけとか、白菜の葉先のやわらかい部分だけなど、極端に食事を制限してしまう患者さんもいます。体調が悪いときはそれでも構いませんが、症状が落ち着いてきたら、体組織をつくる主要な成分であるたんぱく質をしっかり摂ることを伝えてほしいです。
「赤身肉を食べて」とだけ言われても、料理をあまりしない患者さんや、若い方たちはどうやって食べたらいいのか、戸惑うと思います。消化吸収に負担がかからないようにしっかり噛んで食べるとか、野菜と一緒にだし汁でじっくり煮るなど簡単な調理法を紹介してあげると、ハードルが下がって実践しやすくなるでしょう。
脱水の傾向がある場合は「水分をこまめに摂って」だけではなく、腸を冷やさないように常温のものを摂るように伝えてほしいです。最近では常温の飲料もコンビニで売っていますので、そのこともぜひ教えてあげてください。
外食で食べられるものがなくて困っている患者さんにとって、外食メニューの情報はありがたいものです。「この間、病院の近くの〇〇というレストランで〇〇定食を食べたよ。あれだったら、安心して食べられると思うよ」など、ご自身の経験や集めた情報を患者さんに提供してあげてほしいです。患者さん自身がメニューを選ぶときのポイントもわかると思います。
学生さんの場合、自宅から持参するお弁当であれば、メニューを調節できるので問題ありませんが、給食の場合は、食べられないおかずが出たときに困ることがあります。保護者から学校に説明して、食べられないものを残すこともあることを理解してもらい、必要に応じて給食の量を調整してもらうなどの協力をお願いするよう伝えてみてください。
監修:国崎 玲子 先生
横浜市立大学 附属市民総合医療センター
炎症性腸疾患(IBD)センター 准教授
潰瘍性大腸炎の患者さんのためのよくあるお悩み解消レシピを冊子にて紹介しております。管理栄養士監修の元、貧血・脱水が気になるときの食事のポイントについてのアドバイスも掲載しております。
普段あまり料理をしていない人にとって、ここで提案しているメニューは、一見ハードルが高いように見えるかもしれません。でも、実際に作ってみると、案外簡単に作れることに気づくと思います。まずは手軽に作れそうなものや、好みの食材を使ったメニューからチャレンジしてみるよう伝えるといいと思います。
本コンテンツは、日本国内の医療・医薬関係者を対象に、日本国内で医療用医薬品を適正にご使用いただくため、日本国内の承認に基づき作成されています。日本の医療機関・医療提供施設等に所属し、医療行為に携っている方を対象としており、日本国外の医療関係者、一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
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