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小児神経因性膀胱は、下部尿路機能を制御する中枢神経系(脳・脊髄)や末梢神経のいずれかの部位の障害によって膀胱の蓄尿・排尿機能に異常が生じます。主な原因疾患として二分脊椎(脊髄髄膜瘤や脊髄脂肪腫)などがあげられます。
ここでは小児神経因性膀胱の特徴のほか、その原因となる二分脊椎と二分脊椎に伴う合併症(主に泌尿器科領域)についてご紹介します。
▼ 小児神経因性膀胱の特徴
▼ 二分脊椎とは
▼ 二分脊椎に伴う泌尿器科領域の病態(合併症)
神経因性膀胱では基本的な病態が固定していないため、多彩な下部尿路機能症状を呈します。神経因性膀胱の病態や症状は、神経の障害された部位により異なります。具体的には、蓄尿期では不随意の排尿筋の収縮が生じる排尿筋過活動や膀胱が固くなる低コンプライアンス膀胱があり、高圧蓄尿の原因となります。また、尿道抵抗が下がった状態である尿道括約筋収縮不全では、尿失禁の原因となります。一方、排尿期では高圧排尿の原因となる排尿筋括約筋協調不全(DSD)や十分な排尿反射が生じない排尿筋低活動などが存在します。
また、神経因性膀胱の原疾患は多様ですが、小児では大部分が二分脊椎とされております。脊髄髄膜瘤に代表される嚢胞性二分脊椎では、90%以上になんらかの神経因性下部尿路機能障害(neurogenic lower urinary tract dysfunction:NLUTD、以降は神経因性膀胱と記載します)が認められます。脊髄脂肪腫などの潜在性二分脊椎では、脊髄係留による神経障害と、脂肪腫の増大(肥満)によって神経組織が圧迫されることでも症状があらわれると考えられております。脊髄脂肪腫の約40%にNLUTDが認められます。
NLUTDのうち、尿失禁は蓄尿障害の所見であり、尿道抵抗が下がる病態(尿道括約筋収縮不全)や膀胱内圧が高圧となり尿道抵抗を上回る病態(排尿筋過活動など)で認められます。
神経因性膀胱は腎機能障害をきたしやすいため、適切な尿路管理が必要となります。排尿筋、尿道括約筋ともに過活動・過緊張であるタイプが最も腎機能障害のリスクが高く、膀胱内が高圧になると二次的に膀胱尿管逆流(VUR)を引き起こし、特に症候性尿路感染(UTI)を併発すると腎機能障害のリスクがさらに高まります。
佐藤裕之ほか:小児内科40(増刊号):969, 2008
中井秀郎:日本医事新報 (3754):23, 1996
二分脊椎は神経管閉鎖不全によって生じた、脊椎管の先天奇形の総称です。臨床的には、神経組織が露出し皮膚欠損や髄液漏を伴う嚢胞性二分脊椎と、病変部位が皮膚で覆われている潜在性二分脊椎に分けられます。両者では診断時期や診断方法、合併病変などの臨床像が異なります。
嚢胞性二分脊椎では主に神経組織形成不全が原因となり、病変部位より末梢の運動感覚障害と膀胱直腸障害を呈します。また、患児の多くは髄液漏が原因で水頭症や脊髄空洞症、キアリ奇形などの髄液循環障害を合併するため、新生児期より脳神経外科、泌尿器科、整形外科、小児外科、小児科などによる集学的治療を必要とします。
潜在性二分脊椎の患児は出生時には無症状なことが多いですが、脂肪腫による脊髄圧迫や成長に伴う脊髄係留により運動感覚障害や膀胱直腸障害を引き起こすことがあります。そのため、しばしば整形外科や泌尿器科などでの診療が発見の契機となります。一般的に症状は嚢胞性二分脊椎より軽症なケースが多いです。
このように二分脊椎の診療では、患児の状態に合わせて各科がその専門領域を担当することになりますが、問題が多岐にわたるため患児の全体像を把握することが困難となることが少なくありません。二分脊椎の患児には、生涯にわたって医療や療育、教育、福祉など多面的なサポートを必要とする方が多くいらっしゃいます。
里龍晴:西日本泌尿器科 81(3):301, 2019
吉藤和久:Clinical neuroscience 37(6):722, 2019
1)嚢胞性二分脊椎(spina bifida cystica)
a. 脊髄披裂(myeloschisis)
b. 脊髄髄膜瘤(myelomeningoceleあるいはmeningomyelocele)
c. 髄膜瘤(meningocele)
2)潜在性二分脊椎(spina bifida occulta)
a. 合併症のない単なる椎弓の癒合不全
b. 合併症のあるもの
(1)先天性皮膚洞〔congenital cranial (spinal) dermal sinus〕
(2)腰仙部脂肪腫(lumbosacral lipoma)
(3)終糸肥厚症(thickened filum terminale)
(4)割髄症(diastematomyelia)
1) | 嚢胞性二分脊椎(spina bifida cystica) |
a. | 脊髄披裂(myeloschisis) | |
b. | 脊髄髄膜瘤(myelomeningoceleあるいはmeningomyelocele) | |
c. | 髄膜瘤(meningocele) |
1) | 嚢胞性二分脊椎(spina bifida cystica) |
日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会編集:二分脊椎に伴う下部尿路機能障害の診療ガイドライン[2017年版] 1 リッチヒルメディカル株式会社:18, 2017
a: | 脊髄髄膜瘤 | : | 神経管の閉鎖が障害されたことにより、これを覆う椎弓が形成されず、その部分の皮膚が欠損し、脊髄や神経組織が直接外表に露出した奇形。 |
b: | 髄膜瘤 | ||
c: | 脊髄脂肪腫 | : | 中胚葉由来の脂肪組織が二次性神経管形成時に尾側脊髄に迷入した細胞障害による発生異常 |
d: | 先天性皮膚洞 | : | 神経管形成過程の表在外胚葉との分離障害によって、皮膚と神経管(脳または脊髄)が上皮性の管腔でつながった異常。脊柱では腰仙部、頭部では後頭部に好発 |
岩間亨:“第9章先天奇形”標準脳神経外科学新井一監修/冨永梯二、齊藤延人、三國信啓編集15 医学書院:285, 2021より改変
嚢胞性二分脊椎にわが国における発生率は分娩10,000件あたり2~6人で、1980年代以降増加傾向が示唆されています。
リスク要因として、3等親親族内の二分脊椎の存在、母親の抗てんかん薬の内服、低出生体重児などがあります。妊娠前からの葉酸摂取が二分脊椎発生予防に有用であることが示されています。
井川靖彦:“Ⅲ 小児泌尿器科学各論 H 小児の下部尿路機能障害など 2 小児の神経因性下部尿路機能障害” 小児泌尿器科学 日本小児泌尿器科学会編集 診断と治療社:257, 2021
INTERNATIONAL CLEARINGHOUSE FOR BIRTH DEFECTS SURVEILLANCE AND RESEARCH:Annual report 2014
http://www.icbdsr.org/wp-content/annual_report/Report2014.pdf 2021年9月閲覧より作図
注意:上記Webページの印刷物を提供する事はできません。
嚢胞性二分脊椎(脊髄髄膜瘤)では、背部の正中部に正常皮膚が欠損した腫瘤を認め、その中央部に脊髄が露出しているか、あるいは粘膜下に透見されれば、視診にて診断が可能です。脊髄髄膜瘤の高位と神経学的所見、髄液漏や汚染の有無、水頭症合併の有無を確認します。水頭症の確認はベッドサイドでのエコーで可能です。正確な二分脊椎レベルはMRIで確認します。
頭蓋X線像では頭蓋裂孔(craniolacunia)がみられることがあります。
潜在性二分脊椎(脊髄脂肪腫)では、外表所見:正中に皮膚に覆われた瘤を形成し、内部は脂肪組織であるので触診上は柔らかいことが多いです。血管腫、皮膚陥凹、異常毛髪、などその他の皮膚症状を伴うこともありますが、外表情の明らかな異常を示さないこともあります。通常は、腰仙部に発生しやすいです。
原則的には二分脊椎病変の脊椎高位に応じた神経学的欠損症状がみられます。
二分脊椎患者の多くに尿失禁や便失禁が認められ、QOLに大きな影響を与えます。排尿も排便もどちらも骨盤神経や下腹神経、陰部神経による支配を受けているため、相互関係があることが知られております。学童期に入ると精神面の発達や社会生活への影響が懸念され、6歳以上では66%が生活に支障をきたすと報告されています。
二分脊椎患者においては尿路感染のリスクがあります。その原因として、多量の残尿(排尿効率の低下)、CICの不適切な手技、膀胱憩室、尿路結石などが考えられます。カテーテル操作は少なからず細菌尿や白血球増多の原因となります。特に有熱性の場合は腎盂腎炎から腎瘢痕の原因となります。
二分脊椎患者の中には、出生後、早期に適切な尿路管理を開始しないと腎機能障害をきたす危険がある症例が約30%存在します。腎機能障害は主に水腎症や腎盂腎炎によって引き起こされ、それらは上部尿路拡張あるいは膀胱尿管逆流(vesicourteral reflux:VUR)によって惹起されます。
16~25歳のオランダ人二分脊椎患者157例を対象とした生活と性的活動における性欲の重要性に関する調査結果において、52%の患者しか現在の性生活に満足していませんでした。また、尿失禁や自信の欠如などが性的接触の障害として併せて報告されました。
K.Krogh, et al.:APMIS Suppl (109):81, 2003
T Jahnukainen, et al.:PediatrNephol20(8):1043, 2005
日向泰樹ほか:小児科診療81(増刊号):795, 2018
M. Verhoef, et al.:Arch Phys Med Rehabil86(5):979, 2005
E. Ausili, et al.:SpinalCord 48(7):560, 2010
01 疾患を理解する
02 可能性を疑う
03 診断を行う
04 治療をする
05 疾患紹介動画
小児神経因性膀胱と二分脊椎
小児神経因性膀胱の診療の流れ
小児神経因性膀胱の早期診断・治療の重要性
難治性の下部尿路症状から疑う
検査所見から疑う
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